大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

甲府地方裁判所 昭和44年(わ)155号 判決

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

押収してある印鑑一個(証第一一号)はこれを没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和四三年一二月一三日ころ、山梨県甲府市丸の内一丁目甲府市役所市民部窓口センターにおいて、市民部吏員に対し、穴水〓みがその住居を同市城東一丁目七番二号から東京都港区麻布三丁目一四番五号に変更する事実がないのに、同人が同所に転出する旨の内容虚偽の住民異動届を提出し、もつて公務員たる同吏員に対し虚偽の申立てをなし、よつてそのころ情を知らない同吏員をして、権利義務に関する公正証書の原本である住民基本台帳原本にその旨不実の記載をさせたうえ、これを同所に備え付けさせて行使し、

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為中、公正証書原本不実記載の点は、刑法第一五七条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、同行使の点は、刑法第一五八条第一項、第一五七条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、判示第二の所為中、有印私文書偽造の点は、刑法第一五九条第一項に、同行使の点は、同法第一六一条第一項、第一五九条第一項に、判示第三、第四の所為中、各有印私文書偽造の点は、いずれも刑法第一五九条第一項に、各同行使の点は、いずれも同法第一六一条第一項、第一五九条第一項に、各公正証書原本不実記載の点は、いずれも同法一五七条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、各同行使の点は、いずれも刑法第一五八条第一項、第一五七条第一項、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に該当するところ、判示第一の公正証書原本不実記載と同行使との間、判示第二の有印私文書偽造と同行使との間、判示第三、第四の各有印私文書偽造とその各行使と各公正証書原本不実記載とその各行使との間には、それぞれ順次手段、結果の関係があるので、いずれも刑法第五四条第一項後段、第一〇条により、それぞれ一罪として、判示第一の罪については犯情の重い判示不実記載公正証書原本行使罪の刑により、判示第二の罪については、犯情の重い偽造有印私文書行使罪の刑により、判示第三、第四の罪については、刑および犯情の最も重い各偽造有印私文書行使罪の刑により処断し、判示第一の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、刑および犯情の最も重い判示第四の罪の刑に法定の加重した刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法第二五条第一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、押収してある印鑑一個(証第一一号)は、判示第二の犯行の用に供したもので、犯人以外の者に属しないから、同法第一九条第一項第二号、第二項によりこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(被告人および弁護人の主張に対する判断)

一、被告人および弁護人は、判示第一乃至第四の行為は、いずれも穴水〓みの承諾のもとに行われたものであると主張するが、証人穴水〓みに対する当裁判所の尋問調書(第一、二回)によれば、同人は被告人の判示各行為について承諾を与えたことはないことが認められ、右認定に反する被告人の当公判廷における供述、第二回公判調書中の被告人の供述部分、被告人の検察官に対する各供述調書、証人穴水喜代子の当公判における供述は前掲証拠に照したやすく信用できず、押収してある証(通知書)と題する書面(証第九号)の記載を以つてしても未だ被告人の判示各行為につき事前に穴水〓みが承諾を与えていたことを認めることが出来ないので被告人らの主張は採用しない。

二、次に被告人らは判示第一の事実につき、住民基本台帳法にいう住民基本台帳原本は、刑法第一五七条第一項にいわゆる「権利義務ニ関スル公正証書」に当らないと主張するが、住民基本台帳原本は、公務員が職務上作成する文書であつて、権利義務に関するある事実を証明する効力を有する文書であるから、同条項にいう「権利義務ニ関スル公正証書」に当ると解せられる。従つてこの点に関する被告人らの主張も亦採用しない。

よつて主文のとおり判決する。

(その他の理由は省略する。)

別表

〈省略〉

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例